スーパーの見切り品コーナー。半額のシールが貼られた野菜が、目に入る。
「安い」。そう思った瞬間、なんとなくカゴに入れている。特に献立を決めていたわけでもないのに。
数日後、冷蔵庫の奥で、その野菜がしなびているのを見つける。「あ、これ買ってたな」。結局使わないまま、捨てることになる。
——そんなふうに、「安いから」でつい買って、使わずに無駄にしてしまう人に向けて書きます。
結論を先に言うと、安さに手が伸びるのは、あなたが浪費家だからではありません。「安い」は、買う理由にはなるけれど、使う理由にはならない。ただ、それだけのことかもしれません。

安さに釣られるのは、意志が弱いからではない
まず言っておきたいのは、「安いから」で買ってしまうのは、あなたの意志が弱いからでも、金銭感覚がゆるいからでもない、ということです。
「安い」という情報は、それだけで、かなり強い引力を持っています。半額、タイムセール、特売。こういう言葉を見ると、頭の中で「得できる」という感覚が、先に立ってしまう。
特に、収入に余裕がないほど、「少しでも安く」という気持ちは強くなります。むしろ、家計を大事にしているからこそ、安さに反応してしまう。これは、真っ当な感覚だと思います。
問題は、その「安い」という引力が強すぎて、「そもそも、これを使うのか」を考える前に、手が動いてしまうことです。意志が弱いというより、「安い」という情報が、使い道を考えるより先に、目に入っているのかもしれません。
「安く買った」と「得した」は、別のこと
私にも、失敗があります。
以前は、見切り品や特売品を、よく買っていました。半額の野菜、安くなった総菜、特売で安くなっていた日用品。「安く買えた」と、そのたびに、少し得した気分になっていました。
でも、あるとき気づきました。買った物の中に、使われないまま捨てた物や、押し入れの奥で眠った物が、思っていた以上にあったのです。
ここに、大きな勘違いがありました。「安く買った」ことと、「得した」ことを、同じだと思っていたのです。
たとえば、100円の見切り品を買ったとします。でも、それを使わずに捨てたら、得したのではありません。100円を、まるごと捨てたのと同じです。安く買っても、使わなければ、その分のお金は、ただ出ていっただけ。
「安い」は、支払う金額を小さくします。でも、使わなければ、その小さな金額さえ、無駄になる。値段が安いかどうかと、その買い物が得かどうかは、まったく別の話だったのです。
これは、食品だけの話ではありません。特売の収納用品、安くなっていた洗剤、数百円の便利グッズ。「これが数百円なら」と手が伸びて、家に帰ると、似たような物が既にあったり、結局一度も使わなかったり。私の場合、安さだけで買った物ほど、使う場面が決まっていないまま、押し入れに残りがちでした。反対に、値段に関係なく、使い道を考えて買った物のほうが、長く残っています。
「安い」だけで決める前に、「使うか」を確かめる
そこで、買い方を少し変えました。
「安い」と気づいても、カゴに入れる前に、「これを使う予定はあるか」を確かめる。
具体的には、こんなふうにしています。
- 「いつ、何に使うか」を、一つ考える:カゴに入れる前に、使う場面を一つ思い浮かべる。今夜使う、もう切らしている、いつも使う物を補充する。場面が浮かぶなら、安く買えるのはラッキーです。浮かばず、理由が「安いから」だけなら、いったん棚に戻します。
- 家に、同じ役割の物がないか確かめる:似た物がもうあるなら、安くても、増やすだけです。特に便利グッズや日用品は、家にあるのを忘れて、つい買いがちでした。
- 大袋や徳用サイズは、「使い切れる量か」で見る:安くても、使い切れなければ、余った分は捨てるだけ。ただ、肉やカット野菜のように冷凍できる物なら、量が多くても使い切りやすく、かえって家計の助けになります。「使い切れるか」は、量そのものより、保存がきくかで見ると判断しやすいです。
ポイントは、判断の順番を入れ替えることです。
これまでは、「安い」→「じゃあ買う」の順でした。それを、「使うか」→「使うなら、安いのはラッキー」の順にする。使うかどうかを先に決めておけば、「安い」は、ただのおまけになります。安さは、買う理由の一番目ではなく、最後のひと押しくらいに置いておく。それだけで、無駄な出費が、少しずつ減っていきました。
やってみて、変わったこと

この順番に変えて、まず変わったのは、節約できた金額ではありませんでした。
冷蔵庫や押し入れの中で、無駄になる物が減ったことです。
以前は、見切り品を買うたびに、少し得した気になっていました。でも、そのあとで腐らせたり、使わずに眠らせたりして、結局は「またやってしまった」と、自分を責めていました。
今は、「安い」で反射的に買わなくなったぶん、家の中で無駄になる物が減りました。買った物を、そのまま眠らせることが減った。すると、「あれ、使わなかったな」という小さな罪悪感も、生まれにくくなります。
もちろん、これで家計が劇的に変わったわけではありません。ただ、「安く買ったのに、結局使わなかった」という、避けたかった出費が減ったのは、私にとっては確かな変化でした。
それに、使う場面を考えて買っても、思ったより出番が来なかったり、使ってみたら合わなかったりして、残る物は、どうしてもあります。それは、誰にでもあること。ここで減らしたいのは、そういう物ではなく、最初から使う場面がないのに、安さだけで買ってしまう物のことです。
副産物のようなものもありました。買い物の時間が、少し短くなったことです。見切り品コーナーやセール棚を「安いかどうか」で一つずつ吟味しなくなったぶん、必要な物だけ買って、さっと帰れるようになりました。疲れた日には、この「早く帰れる」も、地味にありがたい変化でした。
疲れた日ほど、「安い」に弱くなる
介護の仕事をしていると、疲れて帰る日が多くなります。そして、疲れているときほど、「安いから」の誘惑に、弱くなります。
疲れていると、「これは本当に使うか」と考える力が、残っていません。だから、「安い」という分かりやすい情報だけで、手が動いてしまう。判断がラクなほうに、流れてしまうのです。
だからこそ、疲れた日の買い物では、少しだけ気をつけたい。「安い」で手が伸びたら、「これ、いつ使う?」と、一度だけ自分に聞く。答えが浮かぶなら買う。浮かばないなら、いったん戻す。その一呼吸があるだけで、疲れた日の勢い買いが、少し減りました。
夜勤明けや、へとへとの帰り道は、特にそうです。考える余裕がない日は、見切り品コーナーを見ず、買うと決めていた物だけ持って帰る日があってもいいと思います。
本当に使う物が安いのは、ラッキー
念のために書いておくと、これは「安い物を買うな」という話ではありません。
いつも使っている物、もう切らしている物が、たまたま安くなっていたら、それは買っていいと思います。使うと決まっている物が安いのは、素直にラッキーです。
ここで書いたのは、あくまで「使う予定もないのに、安いという理由だけで買ってしまう」場面のことです。安さそのものが悪いのではありません。「安い」を、買う理由の一番目に置かないだけの話です。
今日できる、小さな一歩

今日は、一つだけ。
家の中で、「安いから買ったけど、使っていない物」を、一つ見つけてみてください。
冷蔵庫の奥でも、押し入れの中でも、引き出しでもかまいません。「安かったから」で買って、そのままになっている物が、きっと一つはあるはずです。
見つけても、責めなくて大丈夫です。捨てる必要もありません。
ただ、「次に似た物が安くなっていたら、”いつ使う?”を一度だけ聞く」と、決めておく。今日は、その判断の順番を一つ覚えておくだけで十分です。過去の一つが、次の買い物の、小さなブレーキになってくれます。
おわりに
「安いから」で買って使わないのは、あなたが浪費家だからではありません。「安い」という言葉の引力が、「使うか」を考える前に、手を動かしてしまうからです。
安く買うことと、得することは、別のこと。使わなければ、安くても、ただの出費です。
値段だけで決める前に、「これ、いつ使う?」を先に。その順番を入れ替えるだけで、避けたかった出費が、少し減るかもしれません。少なくとも、私にはそうでした。
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