夜勤明けの朝。ようやく家に帰って一息つくと、フローリングの隅にたまったホコリや、洗面台の水あかが、ふと目に入る。
「掃除しなきゃ」と思う。でも、体はもう動かない。掃除機を出すのも、雑巾を絞るのも、今日は無理だ。そのまま見なかったことにして、また数日が過ぎていく。
——そんなふうに、疲れて掃除まで手が回らない人に向けて書きます。
先に結論を言うと、掃除が終わらないのは、あなたの気力が足りないからではありません。掃除のたびに動かす物や、拭かなければいけない場所が、多すぎるだけかもしれません。

掃除ができないのは、だらしないからではない
まず言っておきたいのは、掃除が続かないのは、あなたがだらしないからでも、面倒くさがりだからでもない、ということです。
疲れて帰ったあとの掃除は、思っている以上に重い家事です。ただ拭くだけ、と思っても、実際には「物をどかす」「掃除機や雑巾を用意する」「拭く」「物を元に戻す」と、いくつもの工程が連なっています。
一つひとつは小さくても、体力と気力が残っていない日には、その全部が重くのしかかります。掃除機を出すところで、もう「今日はいいや」となってしまう。
特に、立ち仕事で一日中動いたあとや、夜勤明けのように生活リズムが崩れた日は、掃除に回すエネルギーがそもそも残っていません。動けないのは、真っ当な体の反応です。
掃除が終わらない、本当の理由
では、なぜ掃除はこんなに終わらないのか。
私は長いあいだ、「自分の掃除のやる気が足りないからだ」と思っていました。だから、気合を入れて一気にやろうとして、そして続きませんでした。
あるとき気づいたのは、掃除が重いのは気力のせいだけではなく、掃除しなければいけない「場所」と「物」が、そもそも多すぎるということでした。
たとえば、床にバッグや紙袋が置いてあると、掃除機をかける前に、まずそれをどかさないといけません。棚の上に小物が並んでいると、ホコリを拭くたびに、一つずつ持ち上げて、また戻す。洗面台にボトルが何本も立っていれば、その周りをていねいに拭くことになる。
つまり、置いてある物の数だけ、「どかす→掃除する→戻す」という手間が、静かに増えていたのです。掃除が終わらないのは、私の気力が足りないからというより、掃除する対象が多くて、一回の掃除が重くなっていたからでした。
ここでいう「掃除する場所」は、部屋の広さのことではありません。床に置いた物の下。洗面台に並べたボトルの底。マットそのものと、その下の床。物が一つ増えるたびに、その下や周りにも、掃除する箇所が増えていきます。私が減らしたかったのは、部屋の広さではなく、掃除のたびに手を止める箇所の数でした。
これは、掃除の手順を工夫する話ではありません。どかす物や、拭かなければいけない場所そのものを、減らす話です。
掃除の「やる気」ではなく、「する場所」を減らす
そこで、掃除のやり方を変えました。正確に言うと、掃除のやる気を上げるのをやめて、掃除する場所そのものを減らすことにしました。
具体的には、こんなふうにしています。
- 掃除機を通す一角の物を、一つ減らす:床全体を空ける必要はありません。まずは、掃除機やフロアワイパーを通したい一角だけ、物を一つ移します。掃除の前に「どかす・戻す」が一回減るだけでも、始めるハードルは下がります。目的は、片づけることではなく、掃除機を止める障害を一つ減らすことです。
- 水回りの小物を、一つ減らす:三角コーナーやスポンジラック、何本も並んだボトル。これを一つ減らすたびに、その物の底・裏・周囲を拭く場所が、まるごと消えます。置く物が少ないほど、どかさずに拭けます。
- 不要なマットを、一枚見直す:バスマット、トイレマット、キッチンマット。マットは、それ自体が「洗う物」です。一枚減らすと、マットを洗う家事が一つ消え、その下の床も拭くだけで済みます。滑り止め・防寒・水はね対策として必要なら、無理に外さなくて大丈夫です。なくても困らない一枚だけで十分です。
ポイントは、掃除を「がんばる対象」ではなく、「減らす対象」として見ることです。物を一つ減らすたびに、その物の下・裏・周りという「掃除する箇所」が、一つ消えていきます。
新しい収納用品や掃除道具は、買わなくて大丈夫です。まずは、掃除のたびに動かしている物を一つ、今ある棚や空いている場所へ移せないか見るだけで十分です。もし移す場所がなければ、①使っていないなら手放す ②同じ役割の物が複数あれば一つにする ③残す物だけ、今ある場所に戻す、の順で見ると、収納を買い足さずに済みます。
やってみて、変わったこと

この考え方に変えて、まず変わったのは、掃除にかかる時間ではありませんでした。
掃除に対する、心理的なハードルが下がったことです。
以前は、「掃除する」と考えるだけで気が重くなって、後回しにしていました。今は、掃除の前に動かす物が減ったぶん、「気が向いたときに、そのまま拭く」で済みます。掃除をこまめにできるようになったというより、掃除を始める前の手間が減った、という感覚です。
それに、掃除する物が少ないと、物の裏や底など、汚れが隠れる場所が減ります。汚れそのものが出なくなるわけではありませんが、どかさず拭ける場所が増えたぶん、「久しぶりに掃除したら、物の陰が大変なことになっていた」ということは、減りました。
もちろん、これで部屋がいつもピカピカになったわけではありません。ただ、掃除を「特別に気合を入れてやる日」を作らなくてよくなったのは、私にとっては確かに楽なことでした。
疲れた日ほど、「場所の少なさ」に助けられる
介護の仕事をしていると、掃除まで気力が残らない日が、どうしても多くなります。連勤の途中や、夜勤明けの日は、掃除どころではありません。
だからこそ、元気な日に「掃除する物」を減らしておくことが、効いてきます。掃除する対象が少なければ、疲れた日でも、「洗面台だけなら拭けそう」と思える日がありました。もちろん、何もしない日があっても構いません。
気力に頼って掃除しようとすると、気力が切れた日にすべて止まります。でも、そもそもの掃除する物が少なければ、気力が少ない日に、掃除を始める前の負担を一つ減らせました。少なくとも私には、その方が合っていました。
疲れている自分を責めて気合を入れ直すより、疲れた自分でも回せるように、場所のほうを減らしておく。そのほうが、長い目で見ると続きました。
全部やらなくて、いい
念のために書いておくと、これは「物を全部なくせ」という話ではありません。
マットが必要な人もいます。冬に足元が冷える、フローリングの音が気になる、そういう理由でマットを敷いているなら、それは無理に外さなくて大丈夫です。水回りの小物も、使っていて役に立っているなら、そのままでいい。
減らしたいのは、「なくても困らないのに、掃除の手間だけを増やしている物」です。掃除が趣味で、まったく苦にならない人は、今のやり方のままで何も問題ありません。
あくまで、「掃除が続かなくて困っている」人に向けた、一つの逃げ道として読んでもらえたらと思います。
今日できる、小さな一歩

今日は、一つだけ。
床や洗面台を見て、掃除のたびに動かしている物を、一つ見つけてみてください。
使っていないなら、手放す。使っているなら、掃除の邪魔になりにくい場所へ移す。バッグでも、ボトルでも、読みかけの本でもかまいません。
減らさなくても大丈夫です。今日は、どの物が掃除を一回止めているのか、分かるだけでも十分です。
掃除は、やる気を出してから始めるものだと思われがちです。でも本当は、始める前に、掃除する場所を少しだけ減らしておくほうが、ずっと楽になります。
おわりに
掃除が続かないのは、あなたの気力が足りないからではありません。掃除のたびに動かす物や、拭かなければいけない場所が、多すぎるだけかもしれません。
掃除のやる気を上げようとすると、気力の切れた日に止まってしまいます。でも、掃除する物や箇所そのものを減らしておけば、掃除を始める前の手間が、一つ減ります。
掃除が重いのは、気力が足りないからではなく、掃除の手を止める場所と物が多いから。少なくとも私にとっては、そう考えを変えたほうが、掃除とずっと楽に付き合えるようになりました。
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