夜勤明け。仕事靴を脱いで、通勤用の靴に履き替える。足の裏が、じんじん重い。
脱いだ靴を下駄箱にしまうとき、ふと目に入る。かかとが、外側だけすり減って斜めになっている。クッションも、買ったころの弾力はもうない。
「そろそろ替えたほうがいいよな」と思う。でも、「まだ履けるし」「もったいないし」で、今日もそのまましまう。
——そんなふうに、「へたった仕事の靴を、なんとなく履き続けている」人に向けて書きます。
結論を先に言うと、仕事の靴は、長持ちさせる物ではなく、替えていく物。そう考え方を変えるだけで、選ぶのも、手放すのも、ずっと楽になりました。

替えられないのは、もったいない精神のせいではない
まず言っておきたいのは、へたった靴を履き続けてしまうのは、あなたがケチだからでも、ずぼらだからでもない、ということです。
私たちは、「服や靴は、いい物を長く使うのが正しい」と教わってきました。物を大事にするのは、いいことだとされています。
でも、この常識には、抜けている前提があります。それは「普通の使い方をした場合」の話だということです。
立ち仕事の一日は、普通の暮らしより歩く量が多くなりがちです。移乗で踏ん張り、急な呼び出しで小走りし、廊下を一日中往復する。仕事の靴は、暮らしの靴とはまったく別の速度で消耗していきます。
つまり、へたるのが早いのは、靴のせいでも、選び方が悪いせいでもありません。それだけ働いているからです。まずそこを、責めなくていい。
「もったいない」の裏で、体が払っている
私にも、失敗があります。
以前、「いい物を長く」と思って、少し値の張る靴を仕事用に買いました。最初は快適でした。でも、数か月でクッションはへたり、かかとは斜めに削れていきました。
それでも、「高かったから」と履き続けました。もったいなかったからです。
その間、何が起きていたか。勤務後の足の重さが、じわじわ増えていました。へたった靴で一日働くのは、小さな負担を、勤務のあいだ中ずっと払い続けることです。
靴代を節約しているつもりで、支払いが「お金」から「体」に替わっていただけでした。しかも体は、疲れやすい仕事の、いちばん大事な資本です。
「まだ履ける」は、たいてい正しい。でも、「まだ履ける」と「まだ体を支えられる」は、別の話だったのです。
「長持ちさせる」より、「替えていく」で選ぶ

そこで、考え方を変えました。
仕事の靴は、消耗品。長持ちさせる物ではなく、替えていく物。
具体的には、こういう選び方です。
- 気軽に替えられる値段の物を選ぶ:私は作業用品の店(ワークマンなど)の数千円の靴にしました。惜しまず替えられる値段であることが、いちばんの機能です。
- 「これ」と決めた同じ物を、繰り返し買う:へたったら同じ物に替えるだけ。選び直す手間も、失敗の不安もありません。
- 替えどきを、状態で決めておく:「かかとが斜めになったら」「クッションが戻らなくなったら」。迷わない目印を、先に決めておきます。
ポイントは、値段そのものではなく、「替えることをためらわない仕組み」にすることです。
高い靴は、へたっても「もったいない」が発生して、手放せなくなる。気軽な値段の定番なら、「お疲れさま」で替えられる。仕事の道具は、この身軽さのほうが、私には合っていました。
「とはいえ、数千円でも出費は出費」と感じる人もいると思います。私もそうでした。ただ、たとえば3,000円の靴を3か月履くなら、月にすると1,000円ほど。一日あたりで見れば、数十円です。もちろん、それでも無理に買い替える必要はありません。ただ、一日中いっしょに働いてくれる道具の値段として考えると、私には「かかってもいい仕事の固定費」に近い感覚になりました。
ちなみに、この考え方は靴だけの話ではありません。仕事用の靴下、インナー、ポロシャツ。汗をかいて、洗濯の回数も多い仕事着は、みんな同じです。「気軽に替えられる定番を決めて、へたったら同じ物に替える」。仕事まわりの物を順番にこの方式にしていくと、買い物の迷いが一つずつ減っていきました。
替えてみて、変わったこと
同じ物を繰り返し買う方式にして、まず変わったのは、足の話ではありませんでした。
迷いが消えたことです。
靴がへたるたびに「次はどれにしよう」「今度こそ長持ちする物を」と探していた時間が、なくなりました。へたったら、同じ物を買う。それだけ。私服を「いつもの数着」にしたときと、同じ軽さです。
もちろん、新しい靴に替えた日の、足の軽さもあります。ただこれは、正直に言えば「靴を替えたから疲れなくなった」と言い切れるものではありません。仕事の疲れには、いろんな理由が混ざっています。それでも、勤務後の「足だけ妙に重い」と感じる日が、私の中では少し減ったように思います。
そしてもう一つ。古い靴を手放すときの、罪悪感が消えました。「消耗品」と決めてあるから、へたった靴は「役目を終えた物」です。もったいないではなく、お疲れさまで送り出せる。この気持ちの違いは、思っていたより大きかったです。
夜勤の多い仕事ほど、この考え方が合う
介護の仕事は、シフトによって靴の消耗も不規則です。夜勤の多い月は、歩く量も踏ん張る場面も増える。「一年もつはず」みたいな寿命の予定が、そもそも立ちません。
だから、期間ではなく状態で替える。「かかとが斜めになったら」の目印だけ持っておけば、シフトがどうであれ、判断はいつも同じです。
それに、施設の中で靴が汚れることは、意外とあります。水仕事で水がかかったり、食事介助でお茶や汁物がこぼれたり、排泄介助でとっさに汚れたり。そのたびに、拭いたり応急処置をしたりして、その場をしのぐことになります。
そんな消耗の激しさがあるからこそ、「同じ物ならすぐ替えられる」という安心感が効いてきます。汚れがひどくなった、傷みが目立ってきた——そう感じたときに、選び方で迷わず、すぐに次の一足を用意できるからです。
勤務中の体は、道具に頼れるところは頼っていい。高くてへたった靴を我慢して履き続けるより、気軽に替えられる状態のいい靴を選ぶほうが、私には合っていました。
「いい靴を長く」が合う人も、もちろんいる
念のために書いておくと、高い靴が悪いという話ではありません。
修理しながら長く履ける靴に愛着を持つ暮らしも、素敵だと思います。私服や休日の靴なら、私もそういう選び方をすることがあります。職場の規定で、選べる靴が限られている人もいるでしょう。
ここで書いたのは、あくまで「消耗が激しい仕事用」の話です。消耗のスピードが暮らしの何倍も速い場面では、「長く使う」より「気持ちよく替える」のほうが、物との付き合い方として無理がなかった、ということです。
今日できる、小さな一歩

今日は、一つだけ。
仕事の靴の、かかとと中敷きを見てみてください。
買い替えは、しなくて大丈夫です。今日は、状態を見るだけ。
かかとが斜めに減っていないか。中敷きが薄くなって、かかと部分が沈んでいないか。靴底が、片側だけ減っていないか。
もし「けっこうへたってるな」と思ったら、それは、靴があなたの働いた量を引き受けてくれた跡です。責める材料ではなく、「そろそろ交代の時期かも」という目印として、覚えておいてください。
おわりに
仕事の靴は、長持ちさせる物ではなく、替えていく物。
へたるのが早いのは、それだけ働いているからです。だったら、惜しまず替えられる定番を一つ決めて、へたったら「お疲れさま」で送り出す。
物を大事にすることと、体を大事にすることが、ぶつかる場面がたまにあります。仕事の靴は、物を長く使うことより、今の体に無理をかけすぎないことを優先していい場面だと、私は思っています。
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