誰かに褒められたとき、「そんなことないです」と、とっさに返してしまうことがあります。仕事の場面でも、ちょっとした日常会話でも、同じように起こることがあります。
相手は良いところを見つけて伝えてくれただけなのに、こちらは反射的に打ち消してしまう。言ってしまってから、少し変な間ができることもあります。特に、褒められ慣れていない場面ほど、この反応は強く出やすいのだと思います。
——そんな覚えのある人に向けて書きます。
先に結論を言うと、褒め言葉を否定してしまうのは、謙遜のためだけとは限らないのだと思います。

褒められると、反射的に否定してしまう
「よくやってるね」「助かったよ」と言われた瞬間、頭より先に「いえ、そんな」という言葉が出てくることがあります。「そんなことないです」という言葉が、ほとんど反射のように口から出てくることもあります。職場や人前など、他の人が聞いている場面だと、なおさら反射的に否定したくなることもあります。
自分では特別なことをしたつもりがない場合、褒め言葉がそのまま受け取れず、まず打ち消す方向に体が動いてしまうのだと思います。褒め言葉の内容が、自分の感覚とずれているように感じられるほど、打ち消したくなる気持ちも強くなります。
それは、謙遜のためだけではない
日本語の会話では、褒め言葉を軽く受け流すことが礼儀のように扱われる場面があります。ただ、それだけが理由とは限りません。謙遜という言葉で片付けてしまうと、その下にある居心地の悪さまでは説明できません。職場で褒められたときと、友人から褒められたときとでは、受け取り方が変わる人も多いと思います。
褒め言葉をそのまま受け取ると、次も同じ水準を求められる気がしたり、実力以上に見られている気がしたりすることがあります。否定するのは、そうした落ち着かなさを避けるための反応でもあるのかもしれません。「次も期待されている」と感じると、素直に喜ぶことが、なんとなく重荷のように感じられることもあります。
否定するほうが、慣れているだけ
褒められたときの返し方は、普段あまり考える機会がないかもしれません。断る場面なら、失敗したときにどう振る舞うかを、周りから教わったり真似したりする機会があります。褒められたときの振る舞い方は、そこまで丁寧に扱われることが少ないのかもしれません。
いつも「そんなことないです」と返していると、それが一番先に出てくる言葉になっていることもあります。否定する返し方のほうが、単純に使い慣れているだけ、ということもあるのだと思います。何度も同じ返し方を重ねているうちに、それが自分の「いつもの言葉」として定着していきます。断る言葉や謝る言葉ほど、練習する機会が用意されていないのだと思います。

「ありがとうございます」で受け取ってみる
褒め言葉への返し方は、否定するか、大げさに喜ぶかの二択ではありません。褒め言葉を疑う必要はなく、そのまま受け取ってみるところから始められます。
「ありがとうございます」とだけ返して、そこで終えてもいい。そう返すことは、自分で「私はすごい」と評価することと同じではありません。相手がそう感じて伝えてくれたことに、ひとまず返事をするだけでもいいのだと思います。褒めてくれた相手も、こちらに正確な自己評価を求めているわけではないことが多いのだと思います。否定でも、大げさな喜びでもない、ちょうど真ん中くらいの反応として、「ありがとうございます」は使いやすい言葉です。
本当に大したことだったのか、自分ではどう思うのかまで、その場で決める必要はありません。評価を保留にしたまま、言葉だけを受け取る。そのくらいの軽さでちょうどいいのだと思います。「ありがとうございます」の一言は、会話を止めるためではなく、次に進むための一言でもあります。

相手や場面によっては、否定してしまうこともある
こう考えていても、相手や場面によっては、とっさに否定してしまうこともあると思います。慣れた相手には素直に返せても、目上の人や初対面の相手には、つい身構えてしまうこともあると思います。
それでも、毎回きれいに受け取れなくても大丈夫です。今の返し方で特に困っていない人は、無理に変えなくても大丈夫です。無理に「ありがとうございます」と言おうとして、かえって言葉が詰まってしまう日もあると思います。そんなときは、いつもどおりの返し方に戻ってしまっても構いません。急に大げさに喜んでみせる必要もなく、いつもどおりの反応で構わないのだと思います。
今日できる、小さな一歩
次に何か褒められたときの返事を、一つだけ決めておきます。実際に褒められる場面を待たなくても、頭の中で一度言葉にしておくだけで準備になります。
「ありがとうございます」とだけ返す。今日は実際に使う場面がなくても、返し方を一つ用意できれば十分です。
おわりに
褒め言葉を否定してしまうのは、謙遜のためだけとは限らないのだと思います。
そのまま受け取ることに、まだ慣れていないだけかもしれません。誰にでも起こることで、特別に直さなければならない癖というわけではありません。
否定するしかなかったところに、「ありがとうございます」と返す選択肢を一つ残しておく。それくらいから始めてもいいのだと思います。褒め言葉との付き合い方は、一度に変えるものではなく、少しずつ馴染ませていくものなのだと思います。
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